怪奇話の多い神社2(丑の刻参り)

同じ神社での話である。この神社は、日枝神社という名前である。昔は山王さんと呼ぶ事もあった。

当然、祭神は大山咋神、亦の名を山末之大主神。であるはずだが、祭神は

猿田彦である。

しかも、名前の猿からの連想から、この神社には狛犬を置くことがタブーらしい。

よくわからない話である。

そして、この神社には牛の化け物が出るという話がある。

子供がいたずらした時に神社の木に縛り付けておくと、夜中に牛が顔を舐めに来るという。

これなどは再犯防止の脅し話である。

多分、丑の刻参りの話からの連想。

それほどこの神社での丑の刻参りが頻繁だったからであろう。

神社の境内に牛神の石碑がある。

その石碑のすぐ後ろに一番大きな楠があり、その木の裏側に無数の錆び釘が残っている。

村の中で一番のやんちゃ者の若い衆がいた。

その頃、丑の刻参りの噂があった。

その若い衆、それを聞き、面白がって夜中にこっそり見に行ったそうである。

親が止めるのも聞かばこそ、肝試し気分で出掛けた。

若い衆が神社に向かうと、コジョウジという名が付けられた田圃の畔道に明かりが見える。

若い衆は神社の参道の脇にある家の陰に身を潜めて様子を伺うと、それは白い着物を着た女であった。

女は頭に五徳を被り、それにろうそくを点して歩いている。

長い髪の毛をざんばら髪にして、口に櫛を咥え、いかにも丑の刻参りのいでたちであった。

若い衆は女が鳥居をくぐるのを見届けて、神社の方へ向かった。

若い衆は鳥居はくぐらず、鳥居脇にある手水鉢の影に身を潜めて、様子を見る。

女は楠の後ろに回り、呪い釘を打ち始めた。

もっとよく見ようと、手水鉢の陰から出た時、見られていることに気づいた女と目が合ってしまった。

一瞬の静寂の後、女は怒りの声を上げて金槌を振り回してこちらのほうにかけてくる。

若い衆は肝をつぶして逃げ出した。女は追いかけてくる。

男の足である。逃げ切れると思った。

しかし女は呪いの言葉を吐きながら迫ってくる。

ようやく家にたどり着いた若い衆は、慌てて戸を閉め、つっかい棒をかまして、布団をかぶりガタガタ震えていた。

そのうち、女の怒り声とともに、ドンドンドンドンドン、ガリガリガリガリガリ、ドンドンドンドンドン、ガリガリガリガリガリ、という音が聞こえた。

生きた心地がしなかったそうである。

それは夜明けまで続いた。

夜が明けると、女も諦めたらしく、音は聞こえなくなった。

外に出て確かめると、板戸には、血糊がべったりとついていた。

そして板戸は、紙のように薄くなっていたと言う。