子狐をほめたおじいさん

明治の頃の話であろうか、いや幕末維新のころまで遡るか。

ある村のおじいさんが大八車を引いて、かなりの遠方の村に行くことになった。

朝、家を出て、行き先の村の手前にあるアマカと言う字地を通りかかった時に、そこにあった神社のあたりで母狐が子狐を遊ばせている。

それを見たおじいさんは、子狐の仕草があまりに可愛くて、思わず母狐に、

「あんたの子供可愛らしいな」

そう言った。すると母狐は、おじいさんの方にちょこんと座って鼻先で子狐をちょんちょんとつついて自分の前に座らせた。

おじいさんには子供を褒められて喜んでいるように見えた。

行き先の村に着き、頼まれた荷物を大八車に積み、しっかり縛って引き始めたがかなりの重さである。帰り道は、年寄りにとってきつかった。

すると、黄色い紋付の着物を着た人が、

「おじいさんどこまで行く?」

と聞くので、

「今から◯◯村まで帰る所や」

そう答えると、

「わしも同じ道筋や、力にはならんが、後ろ押して上げるわ」

と言って大ハ車を押してくれた。その人はかなりの力持ちのようで、しかも仕事慣れしているらしい。大ハ車はおじいさんの力加減に合わせてどんどん進む。

そして、思ったより随分早く自分の村までついた。

「ああ、おおきに。えらい手間かけさせてすまん。家でゆっくり休んで行ってくれんか?なんぼもお礼はでけへんが」

そう言うと、

「いやいや、かまへんかまへん、実はうちの女房が、あんたに何かお礼したい言うてたよってな」

そう言ってさっさと帰って行く。おじいさんは不思議に思って、

「あんたさんはどこのお方や?」

そう聞くと、その人は振り返り、

「アマカ辺りのものや」

そう言って笑いながら帰って行った。

その頃は普通にそんな事があったと言う、祖母の話である。